自分の親が亡くなった時に遺産を相続する場合、多くの場合は相続人の一人が、相続の手続きを一人で行うことになると思います。
そのような人は親の面倒を見ている長男であることが多く、兄妹がいると配分などの面でかなり苦労することもあります。
そのような人のために遺産相続はどのように行うのか、わかりやすく説明します。
税務署への申告
遺産相続は遺産を相続人間で分配して、自分の預金通帳に入れる(もしくは現金で受け取る)ことだけではありません。税務署への申告が必要な場合があります。
資産合計が3,000万円までは、申告は不要です。さらに法定相続人が1人につき600万円までがその3,000万円にプラスされます。
法定相続人は配偶者と子供となり、配偶者と子供が2人の場合は、合計で3人になるので、3,000万円+(600万円×3)=4,800万円となります。死亡者の資産が4,800万円までであれば、税務署へ申告する必要はありません。つまり税金を払う必要がなくなります。
遺産合計には、土地建物などの不動産や、株式証券などもすべて含まれます。
この記事では遺産相続で税務署に申告の必要がない(相続税のない)場合を説明していきます。
遺産相続について
遺産の相続は、法律上配偶者が1/2となり、残りの1/2を、子供たち兄弟姉妹全員が対等に受け取ることができることになっています。ただしこれも相続人間の合意があれば、配分は自由に変えることができます。この件については、後述の下ろした預金の配分という章で説明しています。
土地建物などの不動産や株式証券などの遺産は、故人が個人管理しているはずなので、普通には相続することができます。
しかし銀行預金は別です。
複数の相続人がいる場合、親の死後に親の預金を銀行に下し行っても、簡単には下させてはくれません。少々面倒な手はずを踏み、複数の書類を提出したのち、預金が受け取れるのです。
流れを簡単に説明します。
- 銀行通帳を確認してどの銀行に預金があるかを把握する。
- その銀行に電話して、どのようにすれば預金を下ろすことができるのか聞く。
- 銀行に出向いて提出書類の説明を受ける。(必要書類を渡される)
- 必要書類を集めて、銀行に持って行き預金を受け取る。
このような流れになります。
簡単に死亡者の預金が下ろせない理由は、銀行として余計なもめ事を起こされたくないからです。
長男が親の死後に親の預金を卸しに来て、銀行がそれに対応して預金を長男に渡したとします。その後で長男の兄弟が銀行に来て、「どうして長男にすべて預金を渡したんだ!」と怒ることがあるそうです。兄妹であっても親の遺産について揉めることは珍しくないので、銀行としてもそのような揉め事には関わりたくないため、預金残高を相続者全員が確認したことを証明しない限り、預金は下ろせないようにしているのです。
預金残高の確認方法
前述の3)で銀行から書類を渡され、また必要書類にはどんなものがあるか説明されます。銀行に渡された書類にすべて記入し、押印します。そして銀行に求められた書類を集めます。それを提出することで、死亡者の預金残高を、相続人全員が確認したという証明したことになり、預金が下せることになります。それらを詳しく説明します。
相続人は銀行より、複数の書類を提出することが求められます。銀行によって違うこともありますが、基本は以下の書類が必要になります。
1)死亡を証明する書類
医師によりより死亡診断書が作って渡されます。また市役所で死亡証明書が作られます。これは様々な所で必要になるため、大量にコピーして持っていることをおすすめします。
火葬手続きをする時に、死亡証明書は原紙が必要になることがあります。死亡証明書はA3の用紙の場合があります。A3の場合は家庭用のコピー機で簡単にはコピーできないことが多いです。コンビニに行って複数のコピーを撮っておきましょう。
この書類で、本当に該当者が亡くなったことを銀行は把握します。
2)死亡者の相続人が誰なのかを把握する資料
まずは相続人が誰なのかを確認する必要があります。死亡者の戸籍謄本を取ることになります。市役所で取得します。配偶者、子供がすべて記載されている必要があります。
3)死亡者の預金残高を相続者全員が確認したことを証明する書類
戸籍謄本で相続人が誰なのか判明しました。その相続人全員が、死亡者の預金残高を確認して、印を押さなければなりません。死亡者の預金残高をすべて記入した書類を銀行が作成します。その書類に、確認の印を押す欄があります。ここに相続人全員が、署名と実印を押さなければなりません。
4)実印が本物か確認する書類
上記の書類に実印を押したことで、預金残高を確認したことになります。しかしその実印が本物かどうかがわかりません。そこで相続人全員の印鑑証明書を銀行に提出します。
このような流れになるため、まとめると必ず以下の書類が必要になります。
- 死亡診断書または死亡証明書のコピー
- 死亡者の戸籍謄本
- 銀行で作成してもらった死亡者の預金残高を示した書類に、相続人全員が署名と実印を押したもの
- 相続人全員の印鑑証明書
これを持って行くことで、銀行も死亡者の預金を下ろすことに同意してくれます。
預金を下ろすために提出する書類は、銀行に提出するだけです。預金を下ろすことについては、税務署はまったくのノータッチです。預金を下ろすのに面倒なのは、あくまで銀行側の都合だけです。
死亡者の預金を下ろすには、銀行ごとに必要な書類が変わることがあります。上記3点は必要ですが、それ以外の物を求められることもあります。
また銀行に持参する書類は、原本が必要な場合もありますし、コピーでも問題ない場合もあります。
例えば印鑑証明書ですが、コピーと原本を持参して、コピーを提出するよう求められることがありますし、原本だけを提出させられることもあります。また原本を持って行くと、銀行でコピーを取ってくれて、返却してくれる場合もあります。
書類を集める前に、印鑑証明書や戸籍謄本は、コピーでも構わないか確認しておきましょう。その上で、原本が必要な数だけ集めなければなりません。
下ろした預金の配分
預金を下ろしてから、相続人全員で預金を配分します。これも税務署は基本的にノータッチです。
これは相続人全員で配分を決めることになります。
長男が親の面倒を見続けていた場合など、相続人全員が長男が遺産のすべてを受け取ることを同意した場合は、長男がすべての遺産を相続することも問題ありません。
相続の配分を決めたら、遺産分割協議書を作っておくといいでしょう。
この遺産分割協議書は、以下のようなポイントがあります。
- 人数分だけ作成して、すべてに同じように実印を押す。
- 各ページに必ず実印で割り印する。
- 全員が一部ずつ所有する。
最初は親の面倒を見ていた長男に、すべての遺産が入ることに同意していた相続人も、後から「やはりお金をみんなで分けるべきだ!」と言い出すことがあります。遺産の額はすでに分かっているため、裁判になった場合は遺産を分配するしかなくなります。いくら親の面倒を見ていた長男だったとしても、親の遺産相続は全員が対等になってしまうこともあるからです。
先ほど説明したとおり、銀行預金を下ろすためには、銀行に渡された残高を記した書類に、実印を押してもらうことが必要です。この時に一緒に、遺産分割協議書にも印を押してもらうようにお願いするとスムーズに事が進みます。
遺産分割協議書に実印が押してあれば、後々揉めることはないので安心です。
銀行預金以外の相続
家や土地などの不動産、株式証券、会員権なども、どのように配分するのか相続人全員で決めます。この資産価値を預金額にプラスし、相続税のかからない範囲であるかどうかを確認します。
トータルで相続税のかからない金額であれば、税務署への申告は必要ありません。
これも後々揉めないように、遺産分割協議書にすべてを必ず記入しておきましょう。
またタンス預金というものがあるかもしれません。
たんす預金とは、銀行にお金を預けずに、家の中で保管しているお金のことです。これを手にする場合も税務署に届ける必要はなく、そのまま相続してかまいません。しかし自分以外に相続人がいる場合、正規の手続きとしては、たんす預金も含めて分配すべきでしょう。
長男がタンス預金もすべて相続する場合は、遺産分割協議書を作成した場合、たんす預金のことも考えて、最後に「これまでに記述したもの以外の財産が見つかった場合は、すべて長男が相続する」という言葉を入れておけば、後で揉めることはありません。
財産放棄
相続したくない不動産や負債(借金)なども遺産になります。相続すればそれもついて来ます。そのようなものをすべて相続破棄する、「財産放棄」という方法があります。
親が借金を持っていても、財産放棄すれば親の作った借金を支払う必要はありません。
しかしこの財産放棄は、借金だけを放棄するなど、一部の財産だけを放棄することができません。100万円の借金があった場合、その借金は放棄して、たんすに残っていた50万円は相続するなどはできないのです。
たんす預金はお金の流れから、税務署に把握されていることがほとんどです。財産放棄してから、たんす預金を手に入れて、自分の銀行口座に振り込んだら、放棄した財産を受け取ったことになります。それは絶対に認められませんし、すぐに把握されて税務署より呼び出しを受ける場合もあります。
財産放棄したら、すべての財産を放棄しなければならないことは、絶対に理解しておきましょう。
生命保険の受取
生命保険は、受取人が全額受け取っても構いません。他の相続人に生命保険の受取金額などを伝える必要はありません。
保険会社に出向いて手続きをします。必要なのは以下です。
- 保険証書
- 死亡した親の死亡診断書もしくは死亡証明書
- 自分の本人確認のための運転免許証や健康保険証など
- 保険金を振り込む銀行口座番号がわかるもの(クレジットカードか通帳)
しかし税務署には確定申告する必要が出てくる場合がありますので、調べて正しく申告しましょう。保険金受取の時に、保険会社担当の方にどのような手続きが必要なのか聞いてみるといいでしょう。
まとめ
遺産相続を初めて行う場合、勝手がわからず混乱することもあります。
しっかりした知識を持ったうえで対処しないと、面倒なことになることも珍しくありません。
法的効力のある遺産分割協議書があると後々揉めることもありませんので、作成することを強くおすすめします。
なおここでは、私の経験上のことを書き記しています。確実に手続きするために、関係する金融機関や生命保険会社に確認して書類を集めるようにしてください。